オリヴァー・ヘヴィサイド
人知れず歴史のなかに埋もれてしまっている天才はどれほどいるのだろうか。
19世紀末から20世紀初頭を駆け抜けたオリヴァー・ヘヴィサイドもまたその一人である。無職で独身、独学の「奇人」、オリヴァー・ヘヴィサイドがはじめて現在の形式に導いた「マクスウエル方程式」なしには、現在の電気技術・通信技術の目覚ましい発展は考えられなかっただろう。
本書はヘヴィサイドに魅せられた訳者が見つけ出した数少ないへヴィサイドの伝記である。職につくことをせず、社会的なしがらみを大胆に遮断し、断固として自らの志を貫いた彼の大胆な生き方に魅了される人は多いはずである。
目次
ジョンズ・ホプキンス版への序文
初版への序文
数学について
参考文献について
貨幣価値について
謝辞
ジョン・ホプキンス版に際しての謝辞
第1章 ヘヴィサイドの生い立ち
ヘヴィサイドの人柄
ヘヴィサイドの仕事の特質
ヘヴィサイドの幼年時代の過酷な世界
第2章 青少年時代
幼年時代
幸運な結婚
最初で最後の勤務生活
生涯の決断
技術ノート:ケーブルの損傷はどこにあるか?
第3章 初期の電信理論
トムソンとストークス
二乗の法則
大西洋横断ケーブル
電流の速度
位相歪
技術ノート:トムソンは、無限長ケーブルへの電気の「浸 透」をどのように考えたか
第4章 電信に関するヘヴィサイドの初期の研究
フルタイムの学生
電信に関する論文
信号の速度の非対称性の問題
「数学の怪物」
数学的単純作業
技術ノート:なぜ電線は、一方向の伝搬が他の方向よりも遅くなるのか
第5章 えせ科学者
ヘヴィサイドの宿敵
電灯の並列接続
「実用人」の時代
公開論争
なぜ、(しばらくの間)プリースは優勢であったか
個性の衝突
プリースの能力
電話事情
拘束を拒絶したヘヴィサイド
技術ノート:電灯についてのプリースの解析
第6章 マクスウェルの電気学
はじめに
マクスウェル以前の研究者たち
遠隔作用
光のエーテル
ファラディと力線
ウィリアム・トムソン
マクスウェル
変位電流
後記:ところで、いったい電気って何?
技術ノート1:技巧的にうまく、また、しばしばそのように教えられているが、歴史的には誤っている変位電流の「説明」について
技術ノート2:遠隔作用、場、そしてファラディの電気緊張状態
第7章 ヘヴィサイドの電気力学
無神論者の帰依
雑誌エレクトリシャン
ビッグス氏の重要性
幸先の悪い船出
マクスウェルの方程式の再定式化
ドイツにおける友人
その他のドイツ人たち:フェップル、ボルツマン、そしてプランク
エネルギーとその流れ
運動する電荷
ケンブリッジの友人
超光速
王立フェロー(F.R.S)ヘヴィサイド博士
技術ノート1:二重方程式
技術ノート2:電磁場のエネルギーの局在
技術ノート3:空間内における電磁気的エネルギーの流れのベクトルのヘヴィサイドによる導出法
技術ノート4:ポインティングの物理学(および、ヘヴィサイドの反論)
第8章 プリースとの闘い
高度なハードウェアと低級な理論
初期の数学的解析
ディヴィッド・ヒューズの奇妙な実験結果
フリースの「KR-の法則」とヘヴィサイドの攻撃
オリヴァー・ロッジの発振するライデン瓶
「経験」対「理論」
ヘヴィサイドの雪辱
場面の転換―そして名声
売れなかった論文集
友人たちの支援
さらなる闘い
技術ノート1:表皮効果
技術ノート2:KR-効果
技術ノート3:プリースとロッジ間の避雷針に関する論争
技術ノート4:へヴィサイドとS.P.トンプソンの無歪回路
第9章 四元数をめぐる大戦争
さらなる論争
ピーター・テート― ヴィクトリア時代の科学の戦士
ウィリアム・ハミルトンと四元数
1890年以前―嵐の前の静けさ
ジョジア・ウィラード・ギブスのベクトル解析
テート、一斉射撃を開始
戦闘開始
論争の余波
再び、闘いの終結
技術ノート1:数とベクトル―実数、複素数、四元数
技術ノート2:ブルーム橋におけるハミルトンの閃き
技術ノート3:四元数は複素数である!
第10章 奇妙な数学
「厳密な数学は狭く、物理的な数学は奔放で広い」
演算子の概念
ヘヴィサイドの演算子
展開定理
王立協会による論文掲載の拒絶
拒絶の余波
ケンブリッジの新たな友人
技術ノート1:ヘヴィサイドの抵抗演算子
技術ノート2:pおよび1/p演算子の問題
技術ノート3:ヘヴィサイドの分数次演算子の意味、そしてインパルス
技術ノート4:ヘヴィサイドと発散級数
第11章 地球の年齢をめぐる論争
論争の歴史的背景
化石の問題
ケルヴィンの理論
ケルヴィンの理論に対するペリーの反論
ケルヴィンの問題に対するヘヴィサイドの解析
ペリーの不連続な拡散係数の理論
ケルヴィンの弁明とペリーの回答
論争の終結
論争の評価
結び
技術ノート1:ケルヴィンのはじめの一次元問題のヘヴィ サイドの演算子による解法
技術ノート2:拡散係数が不連続であるペリーの問題に関 するヘヴィサイドの演算子的解法
第12章 隠棲者の晩年
年金生活の「紳士」
年金における生活
エレクトリシャンにおけるもう一つの変化
新世紀― そして、友人と宿敵との別離
世界はヘヴィサイドに追いつき―そして追い越す
ヘヴィサイド、大気の中に名を残す
生活上のトラブルの増加
ホームフィールドの生活
死は過去を連れ去ってゆく―そして、現在までも
隠棲者の最後
最後の様子
第13章 終章
伝説の成長
ヘヴィサイド、タイム誌に登場
床下の数式
結び
後書き
索引