内蔵助蜩の構え
・津名道代著/46判454頁、2800円/ISBN4-87525-209-9
● 赤穂退去ののち身を置いた洛外・山科で内蔵助の内部に育っていったものは――実において敗れ、虚で勝つ。 力を負わぬ者・鈍な者・腰抜けている者が、実の世の敗者の立場に堅く立ち、三千大千世界の唯中を凛々と駈ける小さな蜩に似た志があるだけだ。これを刻むのは永遠なる心の世界だ。心の世界=三千大千世界の構造は「実」と「虚」を合わせたものだ。だが、蜩の声や、梅や潮の香は、姿なき「虚」でいて、反って「実」の世をいのち薫ぜしめる。