戦場の疫学
常石敬一著/46判228頁、口絵4頁、本体価格:1800円/ISBN4-87525-226-9
●疫学の疫は「流行病」のことであり、疫学とは「流行病学」のことである。 ペスト菌や炭疽菌といった感染力の強い病原体に侵された患者が発生すると、疫学の出番である。感染ルートと患者との接触者をいち早く調べあげ、犠牲者をなるだけ少なくする方策が立てられる。人的隔離はもちろんであるが、大規模な流行には交通の遮断・経済封鎖も考えねばならない。人命救助と社会の安全を目指す医師・研究者の活躍の場である。 しかし、それが戦争やテロとなると、話は逆になる。相手にダメージを与える手段が武器となるのである。それもバイオテロなら、相手に気づかれず密かに遂行することも可能である。 戦前、浜松での食中毒や満州におけるペストなどに、まじめに精密に取り組んでいた研究者たち……その一方で、その実績・経験をさらに推し進め、生物兵器の開発が「防疫研究」の名の下に大規模に画策される。 本書は、「優秀な」研究者たちが総力戦の下で、人体実験を含め細菌兵器の開発・実践に突き進んでいくさまを、資料を丹念に読み込み科学史の立場から明らかにした。著者三十年近くの研究成果。